検索
主なテーマ一覧

自民党政治資金「隠蔽・還流」は会計軽視の象徴だ【ガバナンス時評#14】

「数字は嘘言わぬ」を捻じ曲げた議員立法

これは会計の世界では考えられない例外事項である。会計では「総額主義の原則」が大前提で、「金額が少ないから記載しなくてよし」「無視してよし」とはならない。むしろ、勝手に一部の取引を帳簿外にしたり、隠蔽したりすることそれ自体が、不正と見なされるのである。

しかも今回の政治資金の場合、カネの流れを追跡されないよう痕跡を残さないために政治資金報告書に不記載とし、かなりまとまった額であっても、あえて現金でやり取りしていたという。例えば北海道選出で、今回の件で内閣府副大臣を辞任した安部派の堀井学衆院議員は、1000万円を超えるキックバックを派閥から受けていたが、派閥事務所から現金で受け取り、それを秘書が北海道の事務所まで運んでいたという。

つまり、5年間で1000万円にものぼる額であるにもかかわらず、派閥からは銀行振り込みではなく現金の受け渡しによってキックバックされていたというのだ。現金を持ち運ぶのにはリスクが伴うが、にもかかわらず「現金で」と指示を出していたこと自体、「足がつかないようにしなければならない資金である」ことを自ら露呈していると言える。

これは単純な不記載やミスと同じに考えるべきではないだろう。そのようにして「足がつかないように」得た資金は、当然、使われる際も「足がつかないように」ということになるのだ。しかも、うっかりミスではなく、長期にわたって繰り返し、周到に組織的に行われてきたことでもあり、会計処理本来のあるべき姿を捻じ曲げていると言っても過言ではない。重大な悪質性を認めるほかないだろう。

会計を専門領域とする私がよく紹介する箴言(しんげん)に、こんな一文がある。

「心せよ、数字は嘘を言わぬもの」

これは戦後の日本の会計監査制度の礎を作った太田哲三博士(1889~1970年、一橋大学名誉教授、日本公認会計士協会初代会長)の言葉である。数字というと無味乾燥な印象を受けるかもしれないが、数字が物語るのは事実そのものである。ゆえに、会計は隠蔽や漏れがないように、あるがままの事実を記録しなければならない。しかし、政治資金規正法は“抜け穴”が残るようにルール策定が行われてきたのが現実だ。しかも、それは議員立法によってである。

本来であれば、立法府の議員は自主規制の領域で、最も高度なレベルで倫理観や道徳観を持って法律を策定し、自ら遵守しなければならない。ところが、あえてザル法のまま放置し、都合のいいように制度を悪用してきたのが実態……少なくとも今、多くの国民がそのように認識しているのではないか。

これは派閥を解消すればいいという問題ではないし、自民党だけの問題ではない。自民党は派閥を解消し、党内に設けた「政治刷新本部」の議論で政治資金規正法の在り方を考えていくという。だが、これは集団万引きに手を染めていた人間が、万引きを取り締まる法を考えさせるに等しい。そう言えば、言い過ぎだろうか。

政治は真にアカウンタビリティを担保できる仕組みが作れるのか、今度こそ注視したい。

#15に続く

パーティー券購入不記載、企業側にも好都合 昨年末に明…
1 2

ランキング記事

【PR】内部通報サービス無料オンデマンドセミナー

ピックアップ

  1. ベルトルト・ブレヒト「英雄のいない国は不幸だが、英雄を必要とする国はもっと不幸だ」の巻【こんなとこに…

    栗下直也:コラムニスト「こんなとこにもガバナンス!」とは(連載概要ページ) 「英雄のいない国は不幸だが、英雄を必要とする国はもっと不幸だ」ベ…

  2. 三谷幸喜の“ことば”から考えた「日本のコーポレートガバナンス論」の現在地【遠藤元一弁護士の「ガバナン…

    欧米を参考にしつつも「イコールフィッティング」はできていたか? もう1つのキーワードが「イコールフッティング」である。コーポレートガバナンス…

  3. 【10/18(金)15時 無料ウェビナー】品質不正における内部通報制度の死角:その課題と対応《品質不…

    本誌「Governance Q」と日本公認不正検査士協会(ACFE JAPAN)共催無料連続ウェビナー「品質不正とガバナンスの最前線:公認不…

  4. 起訴から9年越しの“無罪”になった「LIBOR“不正”操作事件」元日本人被告【逆転の「国際手配300…

    米司法省が「敗北」を認める 梅雨が明け猛暑日となった昨年2023年7月27日、筆者は本村氏の東京・六本木のオフィスを訪れた。 「良いニュース…

  5. 【10/11(金)15時 無料ウェビナー】品質不正予防に向けた“意識改革”《品質不正とガバナンスの最…

    本誌「Governance Q」と日本公認不正検査士協会(ACFE JAPAN)共催無料連続ウェビナー「品質不正とガバナンスの最前線:公認不…

  6. 【無料連続ウェビナー! 申込受付中】品質不正とガバナンスの最前線:公認不正検査士と探るリスクと対策…

    いまや日本企業の宿痾となった「品質不正」 製造業企業をはじめ、わが国で「品質」をめぐる問題が多発している。 8月には品質不正問題の影響を受け…

あなたにおすすめ

【PR】内部通報サービスDQヘルプライン
【PR】日本公認不正検査士協会 ACFE
【PR】DQ反社チェックサービス