検索
主なテーマ一覧

企業も「ジャニーズのふり見て我がふり直せ」【ガバナンス時評#5】

企業は「遮断」するのではなく「関与」すべき

金融機関でサステナビリティを担当している私の友人から、さる8月に行われた「国連グローバル・コンパクト」の人権と法の腐敗防止分科会に参加したとの連絡があった。そこでは、ジャニーズ問題がテーマとして取り上げられたという。そこでまとめられた提言は、次のようなものだったそうだ。

〈人権尊重ガイドラインに照らせば、ジャニーズタレントを起用している企業は、企業の責任として直接関連する。ガイドラインでは、影響力を行使して負の影響を軽減するように努め、企業と向き合う〉

つまり、人権的に問題を抱える企業と取引関係にある各企業は、関係を即、断ち切るのではなく、むしろ関与してその企業の人権問題が解消されるよう働きかけなければならない――というのである。

沈黙するのではなく、改善までの推移を見守るべきであって、「直ちに契約を切るのは最後の手段である」としているというのだ。多くの企業がジャニーズ事務所に厳しい姿勢を取っているが、「関与」という点について、日本企業の姿勢は少し足りないかもしれない。

経済同友会の代表幹事である新浪剛史氏(サントリーホールディングス=HD社長)は9月12日の定例会見で、ジャニーズ事務所の対応についてこう述べている。

「謝罪はあったが、現体制が性加害があったことに対して真摯に反省しているかどうかは大変疑わしい。今回の調査内容やそれに対する対応は不十分だ」

サントリーHD社長として朝日新聞デジタルの取材を受けた際には、さらに踏み込んで、次のように述べた。

「今後2~3カ月の間にジャニーズ事務所の体制に改善がみられなければ、所属タレントが出演するテレビ番組のスポンサーを降りることもオプション(選択肢)としてはあり得る」

「私たちも含めた日本の企業は、人権を重視した規範を持たなければならない。(事務所の)会見の内容では、たいへん厳しいのではないか」

国連のグローバル・コンパクトには、日本からも大企業を中心に100社余りが署名している。こうした新浪氏の発言も、まさに国際的な潮流を意識してのものだろう(サントリーHDも会員企業である)。

新浪氏が「改善がみられなければ(CM起用だけでなく)、所属タレントが出演する番組のスポンサーを降りる」としているのは、裏を返せば「改善がみられればスポンサーを継続する」ということでもある。改善がみられるまで企業としての「関与」を続け、推移を見守るということであれば、これは「国連グローバル・コンパクト」の方針と軌を一にするものと言えるだろう。

日本においては、ある業界においてガリバー的な存在が生まれると、独占状態が生じてしまい、健全な競争がなくなって当該のガリバー組織は元より、業界そのものが腐る、という事例が後を絶たない。電通の問題、ビッグモーターの問題なども、ジャニーズ問題と通底する課題を抱えていると言えるのではないか。

企業のみならず、社会全体がグローバル化しつつある現在、日本企業も国際水準のガバナンスを意識せざるを得ない。性加害のような問題ではないにしても、「ジャニーズのふり見て我がふり直す」べき企業が他にもあるのではないだろうか。

(次回#6に続く)

取材・構成=梶原麻衣子

日本型組織の弱点「外圧と訴訟」 (#4から続く)遅く…
1 2

ランキング記事

【PR】内部通報サービス無料オンデマンドセミナー

ピックアップ

  1. ベルトルト・ブレヒト「英雄のいない国は不幸だが、英雄を必要とする国はもっと不幸だ」の巻【こんなとこに…

    栗下直也:コラムニスト「こんなとこにもガバナンス!」とは(連載概要ページ) 「英雄のいない国は不幸だが、英雄を必要とする国はもっと不幸だ」ベ…

  2. 三谷幸喜の“ことば”から考えた「日本のコーポレートガバナンス論」の現在地【遠藤元一弁護士の「ガバナン…

    欧米を参考にしつつも「イコールフィッティング」はできていたか? もう1つのキーワードが「イコールフッティング」である。コーポレートガバナンス…

  3. 【10/18(金)15時 無料ウェビナー】品質不正における内部通報制度の死角:その課題と対応《品質不…

    本誌「Governance Q」と日本公認不正検査士協会(ACFE JAPAN)共催無料連続ウェビナー「品質不正とガバナンスの最前線:公認不…

  4. 起訴から9年越しの“無罪”になった「LIBOR“不正”操作事件」元日本人被告【逆転の「国際手配300…

    米司法省が「敗北」を認める 梅雨が明け猛暑日となった昨年2023年7月27日、筆者は本村氏の東京・六本木のオフィスを訪れた。 「良いニュース…

  5. 【10/11(金)15時 無料ウェビナー】品質不正予防に向けた“意識改革”《品質不正とガバナンスの最…

    本誌「Governance Q」と日本公認不正検査士協会(ACFE JAPAN)共催無料連続ウェビナー「品質不正とガバナンスの最前線:公認不…

  6. 【無料連続ウェビナー! 申込受付中】品質不正とガバナンスの最前線:公認不正検査士と探るリスクと対策…

    いまや日本企業の宿痾となった「品質不正」 製造業企業をはじめ、わが国で「品質」をめぐる問題が多発している。 8月には品質不正問題の影響を受け…

あなたにおすすめ

【PR】内部通報サービスDQヘルプライン
【PR】日本公認不正検査士協会 ACFE
【PR】DQ反社チェックサービス