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【損保ジャパン元役員「不祥事防止」の教訓学#3】自社の不祥事を後世に語り継ぐ“困難と重要性”

NEXCO中日本「笹子トンネル事故」を教訓に

他に不祥事の継承を続けている会社でもうひとつ紹介したいのが、中日本高速道路です。2012年12月に笹子トンネル天井板落下事故(山梨県)が起き、9名の死者を出してしまいました。これを機に中日本高速道路(NEXCO中日本)は2021年に「安全啓発館」(東京・八王子)という施設を新設、安全安心の研修拠点としています。

犠牲者9名のうち5名はワゴン車に乗っていた20代の男女でした。重さ1トンの天井板が落ちてきて、車が圧し潰されたうえ、ガソリンに引火して車は全焼、凄惨な残骸となりました。そのワゴン車を安全啓発館に展示しています。中日本高速道路の人に聞くと、グループ会社も含めて全社員が展示された事故車を見て、こういう悲惨な事故を二度と起こさないように我々は安全安心を最大信条として仕事に取り組もうと決意を新たにしているそうです。

不祥事や事故を起こした企業だけでなく、それ以外の会社でも他社の不祥事から学んでいくことは重要な経営行為です。不祥事から何かを学ぼうとすれば、いくらでも教材があります。しかし、一方で、他社の教訓をきちんと取り込んでいたら、その会社も不祥事を起こさないで済んだだろうと思われるケースが多く起きています。ということは、やはり、不祥事を起こした他社の痛い教訓を学ぶということについては、いまだ十分にできていないのが実情と言えるでしょう。

経営者に求められる「真のサステナビリティ経営」とは

この時代、罰則がない、あるいは罰則が緩いからコンプライアンス体制は十分でなくていい、やらなくていいと考えている経営者は、まずいないと思います。むしろ、そうではなくて、コンプライアンス体制を充実させることが“ビジネスの妨げ”になるというふうに考えてしまうのです。経営者の心理として、そこを押さえておかないといけないのです。経営者としては同じ10の経営資源があったときに、10すべてを営業戦力に投入し売り上げと利益の最大化を図りたいというのが、本音でしょう。しかし、時に数字至上主義になりかねない営業を牽制する仕組みが必要だから、「10のうち3はガバナンスの資源に残そう」という、そうした発想を経営者ができるかどうかに懸かっています。

これが現在頻繁に耳にする「サステナビリティ」の考え方だと、私は考えています。ピーター・ドラッカーの『マネジメント』は約50年前に書かれた本ですが、今、読んでもまったく新鮮なものです。そこには普遍の真理が書かれているからでしょう。彼は会社経営のマネジメントには「3つの役割」があると言っています。

1つは、企業として経済的な成果をあげること。2つ目は、その仕事を生産的なものにして、従業員に成果を上げさせること(従業員に成果を上げさせるのであって、経営者が成果を上げるのではない)。3つ目は、会社が社会に与えるインパクトは会社が大きくなるなるほど大きくなってくる。そういう社会に与えるインパクトがあるから、会社としてそのインパクトを処理し、社会の問題の解決に貢献する。そして、これら3つの役割は異質ではあるが、同じように重要だという。

経営者は、ミッション(使命)や目的を明確にして、社員をして成果を上げさせることだけでは一人前ではなく、やはり、その社会に対するいろんな配慮をしなきゃいけない――。サステナビリティ経営とはそういう問題です。結局、そうした考え方ができない経営者は、現代の経営者たる資格がないということに他ならないのです。

(了)

【シリーズ記事】
(#2から続く)本特集シリーズのテーマである「不祥事の伝承…
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