検索
主なテーマ一覧

起訴から9年越しの“無罪”になった「LIBOR“不正”操作事件」元日本人被告【逆転の「国際手配3000日」#2】

米法曹関係者の発言から垣間見える問題点

ドイツ銀行の元トレーダー2人がLIBOR取引に絡む電信詐欺罪で起訴された事案を担当した、ニューヨーク南部地区連邦地裁のコリーン・マクマホン判事は、2018年10月に2人に有罪評決が下される7カ月前の時点で、すでにこう語っていた。

「当裁判所は不届きな行為を処罰するためにあるのではなく、米議会を通過した刑事法に違反する行為を処罰するためにある」
「被告人が置かれている立場に関しては、訴追されている行為が仮に真実だとしても、電信詐欺ではない」
https://storage.courtlistener.com/recap/gov.uscourts.nysd.458304/gov.uscourts.nysd.458304.203.0.pdf

元連邦検事プリート・バララは、著書『正義の行方 ニューヨーク連邦検事が見た罪と罰』(早川書房)の中で、「司法省の職員のための手引きには、半分以上の確率で有罪を勝ち取ることができそうな時には告発するべきだと書かれている」と紹介している。

逆から見れば、潜在的に最大で「半分」に近い事案が無罪か、あるいは起訴取り消しになる可能性があるということになる。

もっとも、本村氏をはじめ、個々の事案が最終的にどう決着したかについて、米司法省やその担当者がコメントしたり、ましてや謝罪したりすることはほぼない。

そうした中で、本村氏らのLIBOR事案を担当したニューヨーク南部地区連邦地裁のジェド・S・レイコフ判事は著書『なぜ、無実の人が罪を認め、犯罪者が罪を免れるのか――壊れたアメリカの法制度』(中央公論社)で、米国の司法制度について「偽善的な主張、難題、パラドックス及び欠点につきまとわれている」と認めている。

レイコフ判事は主に、軽微な犯罪でも大量に投獄したり、検察官任せの司法取引で無実の人にまで刑罰を科したりする慣行を批判しており、本村氏の場合のように、司法省=検察官の行き過ぎた行動に言及しているわけではない。

ただ、次のようにも語っている。

「私は、これらの欠陥について声をあげることが自らの責務だと考えるようになった。私は、何よりもまず、目の前に現れた実際の事案でこれを行おうとした」

こうした誠実な姿勢が、本村氏の事案、あるいは他のLIBOR関連の事案の処理に直接・間接的に影響したのかは不明だ。今後、検証すべき価値があると言えるだろう。

ともあれ、こうして最終的に、米国においてLIBOR関係で摘発された元トレーダー15人のうち、司法取引に応じた4人を除く11人全員について、有罪判決や起訴が取り消されたのだった。

米司法省が「敗北」を認める 梅雨が明け猛暑日と…
日米“ヤメ検”弁護士の連携 起訴取り消しを勝ち…
1 2 3 4

ランキング記事

【PR】内部通報サービス無料オンデマンドセミナー

ピックアップ

  1. 三谷幸喜の“ことば”から考えた「日本のコーポレートガバナンス論」の現在地【遠藤元一弁護士の「ガバナン…

    欧米を参考にしつつも「イコールフィッティング」はできていたか? もう1つのキーワードが「イコールフッティング」である。コーポレートガバナンス…

  2. サムスン元会長イ・ゴンヒ「妻と子ども以外はすべて変えろ」の巻【こんなとこにもガバナンス!#13】…

    栗下直也:コラムニスト「こんなとこにもガバナンス!」とは(連載概要ページ) 「妻と子ども以外はすべて変えろ」イ・ゴンヒ(李健煕、韓国の経営者…

  3. 【10/18(金)15時 無料ウェビナー】品質不正における内部通報制度の死角:その課題と対応《品質不…

    本誌「Governance Q」と日本公認不正検査士協会(ACFE JAPAN)共催無料連続ウェビナー「品質不正とガバナンスの最前線:公認不…

  4. 起訴から9年越しの“無罪”になった「LIBOR“不正”操作事件」元日本人被告【逆転の「国際手配300…

    米法曹関係者の発言から垣間見える問題点 ドイツ銀行の元トレーダー2人がLIBOR取引に絡む電信詐欺罪で起訴された事案を担当した、ニューヨーク…

  5. 【10/11(金)15時 無料ウェビナー】品質不正予防に向けた“意識改革”《品質不正とガバナンスの最…

    本誌「Governance Q」と日本公認不正検査士協会(ACFE JAPAN)共催無料連続ウェビナー「品質不正とガバナンスの最前線:公認不…

  6. 【無料連続ウェビナー! 申込受付中】品質不正とガバナンスの最前線:公認不正検査士と探るリスクと対策…

    いまや日本企業の宿痾となった「品質不正」 製造業企業をはじめ、わが国で「品質」をめぐる問題が多発している。 8月には品質不正問題の影響を受け…

あなたにおすすめ

【PR】内部通報サービスDQヘルプライン
【PR】日本公認不正検査士協会 ACFE
【PR】DQ反社チェックサービス