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【経営者と女性スキャンダル#2】「危機管理広報」の観点から見たトップのスキャンダル

危機管理広報の鉄則は「迅速・適切な対応」

それでは、会社や経営者のスキャンダルが表に出て、会社の不祥事となってしまった際、広報はどう対応すべきなのでしょうか。

まず、危機管理広報として「やってはいけないこと」を全部やってしまった事例を挙げます。2000年に起きた雪印乳業(現・雪印メグミルク)の集団食中毒事件です。低脂肪乳に黄色ブドウ球菌の毒素に汚染された脱脂粉乳が使用され、戦後最大の1万3000人以上の被害者を出しました。

発生時、経営陣が株主総会のために北海道に移動中だったこともあり、記者会見など初手の対応が遅れてしまいました。さらに社内の情報共有がまったくできておらず、記者会見の席上で、社長が工場長に「自分は聞いていない」と詰め寄るなど情報が錯綜し、短期間に幾度も記者会見を開く破目になってしまいました。こうなると経営トップも広報部門も取材側も疲弊してしまいます。

ついに限界に達したのか、雪印乳業側が記者会見を一方的に切り上げてしまい、記者団に追いかけられた社長が「わたしは寝ていないんだよ!」と“逆ギレ”してしまいました。こうした対応の結果、雪印乳業の信頼は完全に失墜し、2年後に子会社の雪印食品が引き起こした牛肉偽装事件と相俟って、雪印グループは解体に至りました。

雪印乳業のケースは食中毒という顧客の健康に直結する大きな問題で、今回テーマにしている経営トップの不貞問題などとは比較にならない深刻さであるのは確かです。しかし、事の重大性にかかわらず、不祥事やスキャンダルを引き起こした際、企業側からのアクションがないと「こんな酷いことを起こしているのに、なぜ何もしないんだ!?」と世間のイライラは募っていくものです。逆に言えば、早い段階で「事実を把握しており、現在、社内で調査中です」というリリースを1本出すだけで、世間のイライラをある程度は抑止することができます。

こうした不祥事対応が素早くできるかどうかは、結局は事前の準備に依ります。例えば、不祥事が明るみになって、その会社のソーシャルメディアが炎上し始めたとします。準備ができていないと、どういう文言でニュースリリースを出すのか、誰が決裁するのかでバタバタしているうちにタイムラグが生じるので、その間にさらに炎上することになります。

例えば、先日、暴露系インフルエンサーと呼ばれている「滝沢ガレソ」がアーティストの不倫を示唆する投稿を行った際、所属事務所であるアミューズ法務部の公式アカウントが朝3時台に完全否定する声明を投稿したことが話題になりました。こんな時間に対応した例は初めて見ましたが、翌朝の各メディアの第一報は、「アミューズは正式に否定している」ことも報じるかたちになり、同社の株価にも影響はありませんでした。

ですから、自社で起きそうな不祥事を想定した対応マニュアルを事前に整備し、いざ起きたらなるべく速く対応できるよう、炎上を検知できるようにしておくことが必要です。X(旧ツイッター)などをモニタリングし、リツイートが急に増え始めたなど、一定の指標を超えたらアラートを出してくれるソーシャルリスニングサービスも活用すべきでしょう。

また、対応の文言にも注意を払うべきです。問題の詳細に触れずに「一部報道について」といったリリースを出す企業もありますが、「一部報道って何?」「この会社は誤魔化そうとしているのではないか」と不信感を持たれかねません。ですから、「一部報道」が何を指すのかを具体的に書くべきです。

ただし、ソーシャルメディアの投稿状況は必ずしも世論全体を表しているわけではありません。企業のお問い合わせ窓口に実際、どのくらいの意見が届いているのかなどを目安にして、「取材が入れば対応する」「ソーシャルメディアの公式アカウントで声明を出す」「公式サイトでリリースを出す」「記者会見を行う」等、対応のレベルを使い分けることも検討するべきです。

倫理意識は若い世代から変容していく

話を、経営者のスキャンダルの問題に戻しましょう。

もちろん経営者のプライベートな問題にどこまで会社が介入するかは難しい判断となります。しかし、先述した横浜ゴム社長のパパ活問題は個人的には“アウト”だと思っています。「パパ活」というとライトに聞こえますが、要は売買春です。社長は肉体関係を否定していますが、仮に相手が未成年だったら一発退場の案件です。

30歳以上年下の女性にブランド品を大量に買い与えている写真は、なかなかインパクトがありましたから、女性をメインターゲットにした商品やサービを展開する企業のトップだったら、顧客相談窓口等にガンガン「お問い合わせ」が入り、場合によっては不買運動に発展していたかもしれません。横浜ゴムの場合は、そこまで大きな反響にはならなかったので、会社もノーコメントで済ませたのだと思います。

ただし、企業のレピュテーション意識が高まってきている今の時代、会社が経営者の個人的なスキャンダルに対して、ペナルティなし、コメントなしで済ませても、ネット上には半永久的に記事が残ります。日々接している大学生を見ていても、Z世代はジェンダーに関する倫理意識が高い傾向があります。例えば、彼らが就活や転職活動を行うとき、時代についていけない“古い企業”として、生暖かい目で見られてしまっても仕方ないかもしれません。

(取材・構成=Governance Q編集部)
*#3に続く

吉野ヒロ子:帝京大学文学部社会学科 准教授/ 日本広報学会…
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