アクティビスト「丸木強」が振り返る“注目総会”問題の核心#2【株主総会2023】
「株主でないと取引できない」は利益供与ではないか
丸木:株式持ち合いは日本独特のものです。2017年、キリンHDが清涼飲料水事業でコカ・コーラグループと資本提携しようとして破談になったことがありました。その際、キリンがコカ・コーラ側に対して「互いに数%の株式の持ち合わないか」と提案したところ、米本社から一蹴されたという逸話を聞いた覚えがあります。
日本企業における株式の持ち合いは、1960年代の資本自由化に伴い、外資に日本企業が買収されるのを防ぐために、推進され始めたと理解しています。その起源からして株式持ち合いは買収防衛策であり、そもそもの目的が“安定株主作り”なのです。安定株主というのは、経営者が放漫経営をしていても、その経営者の味方してくれる株主にほかなりません。
持ち合い株主と経営者の関係は、互いの企業の経営者の放漫経営を持合い株主として支持してしまうということです。実際、30年以上前に私が証券会社で上場企業を顧客にしていた部署は、株式の持ち合いの仲介をしていました。「安定株主は必要ではないですか? 欲しいのであれば、紹介しますよ」と。まさに安定株主作りでした。
――安定株主作りの根本的な問題点は何でしょう?
丸木:株式持ち合いについては、このように①取引維持を株式保有に頼ってしまい、肝心の商品・サービスの質を高めることが疎かとなり競争力が弱まる恐れ、また、②会社=株主の資産を使って取引先企業経営者の身分保障をして良いのかという問題があり、これについては、経営者として善管注意義務違反の疑いがあるのではないかとさえ思います。
③に、株式を持っているから取引できる、株式を持っていないから取引できない――仮に、他の条件は同じでも、株式を持っている者だけがその会社と取引できるとなると、これは特定の株主への「利益供与」に当たるのではないかという視点もあります。つまり、「取引できる」という利益を与えているわけです。
そして④に、安定株主は常に経営者側に賛成する株主です。一方、社長をはじめとする取締役も自社株を持っています。そうである以上、常に経営者と議決権行使を同じくする株主同士として、取引先等の安定株主と共同で大量保有報告書を提出すべきではないでしょうか。
そして、最後に⑤として、保有株式の評価損益が企業の財政状態に大きく影響することがあるということです。株式市場が振るわない時期には、本業は黒字でも政策保有株式の評価損で減益となる企業もありましたし、自己資本の相当部分が政策保有株式の含み益で自己資本が増減するためにROE(自己資本利益率)が安定しない会社もあります。
持ち合い株には、以上のように種々の問題があるので、我々は「一切持つべきではない」という立場です。
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