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JAL・ANAが現役社長解任「空港施設」国交省忖度の原点#1【株主総会2023】

大株主が派遣した現役社長の取締役再任議案に、派遣元の大株主自身が反対票を投じた結果、再任が否決される――。こんな前代未聞の展開となった東証プライム上場の空港施設。

6月29日開催という3月決算企業の定時株主総会の中でも終盤の開催となった空港施設の株主総会では、会社提案の取締役9人の選任議案のうち、8人については可決されたものの、現役社長である乗田俊明氏だけがあえなく“落選”する事態に……。しかも、反対票を投じたのが筆頭株主のANAホールディングス(以下ANA)と、そして他ならぬ乗田氏の出身母体である日本空港(JAL)だったこと、そして乗田氏の再任を阻んだこのJALとANAの行動が、国土交通省への“忖度”ではないかとする報道が相次いだ。

国交省への忖度――。詳細は後述するが、今年3月に国交省有力OBによる役員人事への不当介入が発覚するなど、コーポレートガバナンス不全の状態にあった空港施設にあって、外部有識者による調査を実施し、ガバナンス改革を主導したトップがほかならぬ乗田氏だった。その乗田氏を排除したJAL、ANAへの批判の声が出ているだけでなく、そんなガバナンスがまともに機能しない会社が上場、ましてやプライム市場への上場を維持していていいのかとの声まで出る有り様となっている。

前代未聞の株主総会から1カ月、本稿ではなぜこのような事態に陥ったのか。そして、空港施設が本来、株式上場に値する会社なのかという議論を、コーポレートガバナンスの視点から改めて俯瞰・検証してみたい。

空港施設の起源は「国際航業」の不動産賃貸業

本題に入る前に、空港施設の沿革をおさらいしたい。まず、手掛けている事業はまさに社名のとおり、空港施設の賃貸管理。空港の土地は国の所有なので、国から借りた土地の上に空港で使う建物を建てて所有し、それを航空会社等に賃貸している不動産賃貸業者である。

会社の設立は1970年2月。航空測量2強の一角である国際航業の不動産賃貸部門を分社化したのが、空港施設である。1993年4月に店頭公開、1995年12月に東証2部に上場、1997年9月に1部への昇格を果たしている。それにしても、なぜ航空測量の民間企業が、空港の施設賃貸という極めて公共性の高い事業を手掛けるに至ったのか。

日本に民間の航空会社が誕生したのは第一次世界大戦後のこと。ただ、いずれも小規模で資本力も弱かったため、政府主導で民間に資金を出させ、1928年に設立された航空会社が「日本航空輸送」である。ちなみに、現在のJALと社名はよく似ているが、縁もゆかりもない。

1936年に発行された『会社四季報』創刊号にこの日本航空輸送が掲載されており、大株主欄には三菱重工業や安田保善社(安田財閥の中核企業、現安田不動産の前身)、渋澤同族(渋沢栄一が設立)、大倉組(大倉喜八郎が設立)に加えて、三井合名、住友合資といった、財閥企業体の名が列挙されている。

日中戦争勃発を機に1938(昭和13)年に国家総動員法が誕生すると、あらゆる業種で企業の統合が国家主導で進められるようになる。航空会社も同様で、上記の日本航空輸送を核に、そのほかの航空会社を統合して「大日本航空」へと再編される。

2021年9月発刊の空港施設の社史『空港施設50年史』によれば、この大日本航空は終戦後、GHQが民間企業による飛行機の所有・運用を禁じたため、解散を余儀なくされる。ところが、所有していた空港の施設はことごとく米軍に接収されていたため、処分も換金も出来なかった。

将来、民間企業による航空事業が解禁された場合に備える目的もあり、暫定的に空港施設を保有・管理する会社として、1947年9月に設立されたのが「三路興業」。三路とは陸、海に次ぐ第三の道という意味だそうで、この三路興業が後の国際航業である。もっとも、保有資産は米軍に接収されたままだから、日銭を稼ぐ事業を別に考えなければならない。そこで始めたのが航空測量事業ということだったようだ。

株式上場の動機は「年商10倍」の投資資金調達 …
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