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【ビッグモーター×損保の核心#2】BM社員たちが“不正”に手を染めた理由

#1から続く損害保険ジャパンでリスク担当役員を務め、現在は企業・組織の危機管理を手掛けるジャパンリスクソリューション社長の傍ら、日本経営倫理学会では常任理事(ガバナンス研究部会長)を務める井上泉氏が、ビッグモーター問題の本質を解き明かすシリーズの第2弾。#1では、ビッグモーターの誕生から創業者である兼重宏行氏の社長辞任までの経緯を概観したが、なぜ社員たちは組織的に悪行を行うに至ったのか――。その背後に迫る。

ビッグモーターに対する国交省の行政処分の内容

国土交通省は2023年10月13日、ビッグモーターが車検や整備で不正を行ったとして、立ち入り検査をした34事業場すべてに対し、道路運送車両法に基づく行政処分を科すと発表しました。22店を10~90日の整備事業の停止とし、悪質な12店は最も重い処分である民間車検場の指定取り消しとしています。

処分理由として、故意により検査の一部(スピードメーター点検、排ガス測定等)を実施せず適合証を交付した、指定整備記録簿の虚偽記載、指定整備記録の記載漏れ、記載誤りが挙げられています。タイヤを不正改造した車に保安基準適合証を交付した例もあり、車の安全性や環境への影響に係る車検での違反は、19工場計135件に上っています。また、国交省の立入調査時に虚偽の説明をした店舗も10店ありました。昨年2022度、全国で指定取り消しは18件でしたから、今回のように1社で12工場も取り消されるというのは、まったく異常な事態です。

ビッグモーターは135の車検が可能な工場を有しているので、今回の指定取り消しも含めた事業停止処分を受けた店数は全体の4分の1を占めます。国交省は今後も残りの101店舗について調査を行うとしているので、さらに処分店が拡大することが見込まれます。特に指定取り消し店は今後2年間は指定されないので、その数の動向によってはビッグモーターの事業継続性に大きな影響を与えることは必定です。

さらに、国交省は不正に関与した14カ所の自動車検査員24人を解任処分(資格取り消し)としました。自動車検査員は国家資格で、自社の工場で車検を行うことができる「指定整備工場(民間車検場)」に必ず配置しなければなりません。整備主任者であって、自動車検査員教習を受講し試験に合格した者が選任されます。ビッグモーターでは、自動車検査員が不正改造を実施するよう要求したり、不正改造を実施したりしていました。自動車検査員は独立性の観点から、整備をする者とは切り離して検査することが求められており、このようなビッグモーターでの行為は、スポーツに例えるなら、審判が自ら場外乱闘に参戦したに等しいものです。ちなみに、2022年度における全国での自動車検査員の解任は45件でしたから、ここでもまたビッグモーターの異常性が際立ちます。

保険金不正請求の原因

預かった車を故意に傷つけるなど、言語道断の悪行がなぜ組織的に行われていたのか。結局、その原因は、売上高目標を達成するためということに尽きます。2018年頃、鈑金・塗装部門の担当本部長が、全国の工場長を集めた会議において、車両修理案件1件当たりの工賃と部品粗利の合計金額(これを「@(アット)」と呼んでいた)を上げることを強く求め、@が低い工場長に対しては、その理由を厳しく問い詰めるなどしており、鈑金・塗装部門の従業員の中には厳しい追及を避けるため、売り上げの先食い計上や架空計上のみならず、前述の不正請求に手を染める者が出てきていたのです。

この担当本部長が更迭されてからも、@を過度に重視した昇格・降格人事が続いていたため、工場長の中には、出世欲から自ら率先して車両の損壊行為に及ぶだけでなく、部下に対してもこれを強いるなどして営業成績嵩上げを図る者も現れてきました。

“究極の選択”を迫られた社員たち 特に2020…
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