【サステナ道場#2】日本における人権デューデリジェンス:問われる「直接対話」の重要性
人権リスクへの対応は「終わりなき旅」である
筆者は、長年にわたって、CSR(企業の社会的責任)やサステナビリティ経営の普及浸透を信条とするCRT日本委員会(下記参照)の活動に関与しているが、企業からの人権DDに関する相談は、日々、引きも切らない。従前と比較するに、現在の熱気には隔世の感がある。
しかしながら、定量化に馴染む環境DDと異なり、人権リスクへの対応は、国・地域・業種やビジネスモデルによっても千差万別であり、繰り返し行うことに大きな意味があり、何を、どこまで、どの程度実施するのか、まさに「終わりなき旅(endless journey)」の様相を呈している。
(注)CRT(Caux Round Table:経済人コー円卓会議):ビジネスを通じて社会をより自由かつ公正で透明なものとすることを目的としたビジネスリーダーのグローバルネットワーク。1986年、日米貿易摩擦問題などを契機として、日米欧、三極の経営者がスイスのCauxに集い、対話と和解を重視したラウンドテーブルの開催したことを機に発足。1994年に策定した「企業の行動指針」は日本経団連「企業行動憲章」や国連「グローバルコンパクト」策定にも大きな影響を与えている。
経済人コー円卓会議日本委員会(CRT)公式サイト
「ライツホルダー」との「直接対話」の重要性
CRTは、日本企業における人権DD実施上の課題のひとつとして、サプライヤーに対するアンケート調査への偏重傾向を指摘する。形式的ともとれる、数多くのサプライヤーへの詳細な質問項目の回答結果の集計や分析に膨大な工数を費やすも、肝心のサプライヤーから寄せられる回答そのものが管理責任者による模範解答的なものであり、アンケート本来の趣旨から逸脱しているケースも少なくないと警鐘を鳴らす。
大事なのは、「ライツホルダー(潜在的な被害を受ける可能性のある権利が保護されるべき当事者)」との「直接対話(dialogue)」であり、まずは、網羅性よりも深掘性を重視して、ライツホルダーとの信頼関係を構築する“小さな成功事例”を積み重ね、自社グループやサプライヤーとの情報共有とナレッジの蓄積を通じて、自社リソースの有効活用と横展開を図ることこそが重要であると説いている。
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