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第11回【久保利英明×八田進二#1】ガバナンスとド派手スーツの原点

オーラを発散する「勝負スーツ」

八田進二教授

八田 総会屋の攻撃の際たるものが、長時間のロングラン総会でした。そして、これに対抗したのが、今では「久保利方式」と呼ばれる議案の一括上程・一括審議ですね。

久保利 直接的には1986年、内紛や不正融資などを引き起こしていた平和相互銀行が、住友銀行(現三井住友銀行)と合併する際の株主総会がきっかけで、総会屋、右翼、暴力団が大挙して押し寄せて総会は大荒れになると予想されていました。どんな立派な社長でも、10数時間も総会で騒がれたら参ってしまいます。これを回避する上手い方法はないかということで、「2時間方式」を編み出しました。

普通、倒産会社の債権者集会でさえ2時間で終わるのに、配当もしている上場企業が10数時間も総会屋に付き合わなきゃいけない理由はない。だったら、「打ち切ればいい」という考えです。断固として2時間で打ち切る方式でやろうと言って戦ったら、警察も必死に守ってくれた。実際、総会屋やエセ右翼などが直前に逮捕されたこともあって、平和相銀の総会は2時間弱で終了させることができました。

八田 その後、一括上程・一括審議の方式を多くの企業が取り入れ、総会屋は利益供与を受けることができなくなり、消滅していきました。先生は防弾チョッキを着て株主総会に臨まれていたって、これ、本当の話ですか。

久保利 本当です。防弾兼防刃チョッキですけどね。警察に相談したら、1着7万円だったかで買わされましたね、もちろん、身を守るために自分で買ったわけですが。(笑)

八田 で、久保利先生のトレードマークというと、今日もお召しになっているような鮮やかなスーツ。特に、裏地が凄い(笑)。原点はこの頃ですか。

久保利 (スーツの裏地を見せながら)そうですね。この頃の捜査4課(暴力団対策担当)の刑事さんたちは、スーツも靴も真っ白の派手なものなんかを身に着けていたんですよ。片や、ヤクザの親分たちも今と違って、白のベンツに乗って、白の麻のスーツを着たりして、それなりの立ち居振る舞いでした。どっちがどっちだか、見分けがつかないくらいで。だから、それを見習って、なんとなく派手になってしまいましたね(笑)。でも、警察からは「久保利さんは警備しやすい」って。目立った格好だと、相手も闇に紛れて刺しちゃおうなんて発想にはならないようですね。

八田 それはそうでしょうね。(笑)

久保利 もう総会屋なんていない時代で、こんな格好をする必要はないんですが、なんとなく派手な格好が好きになって、そのままです。

久保利英明弁護士

八田進二教授の「久保利英明氏との対談を終えて」

久保利英明氏は、法曹界のみならず、少なくとも企業社会に関わりを有するビジネスマンであれば、その名前を知らない者はいないほどに、著名な弁護士である。それは、「日経ビジネス弁護士ランキング」で、1995年から4年連続で1位を獲得されたということだけでなく、一度見たら決して忘れることのない風貌とその鮮やかな出で立ちに驚かされるからでもある。

同氏は、「弁護士は闘争業だ」と称し、そのための戦闘服として、派手なスーツとネクタイ、そして、漆黒の肌を保っておられるのである。まさに戦う弁護士のイメージが大変強いのであるが、実際に、近くで接する機会を得た者から見ると、とても繊細で、かつ、細やかな気配りと温かい心根をお持ちの愛すべき紳士であることを実感するのである。

久保利氏とは、これまでも幾度となく雑誌の対談や公的な会議等で同席させてもらう機会を得ているが、最も頻繁に関わる機会を得たのは、同氏を委員長とする「第三者委員会報告書格付け委員会」の委員を拝命し、これまでに、30本近い報告書の格付けを行ってきたことによるところが大きいのである。そして、この格付けの中で、常に最も厳しい評価をされるのが久保利氏である。それは、広く不祥事対応の一環として採用されている第三者委員会の報告書が真に社会からの信頼を得るようになるべく、お座なりで真因究明に迫っていないような杜撰な報告書は絶対に容赦しない、との強いメッセージとなっているのである。

久保利氏は、「今は今しかない、今、大切な人と話すことで残したい」との思いをもって、「クボリチャンネル」という公式のYouTubeチャンネルを開設し、各界の名士とガバナンスを含む社会の様々な課題について熱い議論を発信されている。

今回の対談でも、まさに、日本のコーポレートガバナンス議論が浸透するきっかけを作られた久保利氏ならではの視点から、ガバナンスの本質に迫る貴重なお考えを拝聴することができた。

第11回「久保利英明×八田進二」#2に続く

八田進二教授 久保利英明弁護士(右)
八田進二・青山学院大学名誉教授が各界の注目人物と「ガバナン…
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