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第9回【冨山和彦×八田進二#3】”お飾り社外取締役”を選ぶ日本企業の「ガバナンス粉飾」

JAL再生「利権構造」を会社更生法で一掃

八田進二 第9回#2から続く冨山さんはJAL(日本航空)の再建にも関与されましたね。私は会社更生手続きが終結した2012年から8年間、JALの社外監査役を務めましたが、冨山さんはまさに更生法申請の前後ですよね?

冨山和彦 2010年1月の更生法申請までのところで関わりました。表舞台では前原誠司・国土交通大臣、裏舞台では財務省から声がかかってデューデリジェンスに入ったのが2009年の9月です。JALの経営がおかしくなったのは直接的には2008年9月のリーマンショックでビジネス需要が激減したことなんですが、病巣はそのずっと以前から抱えていて、よくもまあ、あれだけ長期間にわたって何もせず放っておいたもんだと思うような状況でした。

まずヒト、飛行機、路線のいずれもが3割多い。つまり、固定費が3割も多い。それと一番呆れたのは、2カ月後の2009年11月中旬に、資金繰りが本当に完全ショートするということでした。燃油も買えない、銀行に金利も払えない、税金も払えない。空港の離発着料も払えないから、海外に飛んだ飛行機が戻って来られなくなる。それでも、幹部たちはどうにかなると思っている。

八田 政府が何とかしてくれると?

冨山 そうです。これまでもなんだかんだ言っても、最後は何とかなったんだからと。でも、もうどうにもならないところまで来ていた。返済のメドが立たないカネなんて、どこの金融機関だって貸せるわけがない。とにかく11月12日までに資金を調達しなければいけない。そうしないと、飛行機を飛ばせられなくなる。そうなったら収入はゼロです。だから、航空会社の再建をする場合、飛行機は飛ばし続けないとダメなんです。サメやマグロが泳ぐのをやめたら死んじゃうみたいなもんです。スイス航空(2001年破綻)やパンナム(パンアメリカン航空、1991年破産)が再生不能になってしまったのは、飛行機を飛ばせられなくなったから。ああなったら終わりです。

しかも、当時はリーマンショックの直後だったんで、民間の資金の出し手が全くいなかった。じゃあどうしようかと。ちょうどリーマンショックで傷ついた中小企業を支援するというコンセプトで、官民共同出資のファンド、企業再生支援機構が発足したところでしたから、ここを頼ろうと。ただ、すぐに申請しても実際に資金が出るのは年明けだっていうので、それまでのつなぎのローンを調達しないといけない。そこで事業再生ADR(裁判外紛争解決手続き)を申請して、金融機関がブリッジローンを出しやすくしようというシナリオを国交省、財務省と描いていたんです。

八田 それが会社更生法に代わったんですね。

冨山 そうです。再建計画に固定費の3割カットは必須条件ですが、リストラは労働組合が強すぎてムリ、飛行機と路線は運輸族の利権の温床だからそこに手を突っ込むのはムリ、結果、長年放置されてきたわけです。これを実行しようというのに、強制力がない事業再生ADRではかなり無理な話。「もっと強権が発動できる方法じゃないと」ということで、会社更生法となりました。

冨山和彦氏(撮影=矢澤潤)

八田 事業管財人に京セラ創業者の稲盛和夫さんを起用したのは冨山さんの案ですか。

冨山 そうです。何しろJALの社員だけでなく、これまでJALの利権に群がっていた人たちがおとなしく言うことを聞くくらいの人じゃないとダメだと考えたんです。それに、”喉元すぎたら何とやら”の懸念がありました。企業再生支援機構の出資が入って資金繰りが回り出したら、社員たちは間違いなく元の体質に戻ってしまう。そうならないように睨みを利かせられる人と言ったら、稲盛さん以外、考えつきませんでした。

八田 稲盛さんはすんなり引き受けてくれたんですか。

冨山 いえいえ、最初は固辞されましたけど、最後の一押しは官邸に頼みました。当時は民主党政権で、稲盛さんは民主党の大スポンサーでもありましたから。

八田 稲盛さんの後任として2012年に社長に就任したのはパイロット出身の植木義晴さんでした。植木さんに白羽の矢を立てたのは稲盛さんですか。

冨山 そうです。JALって歴代社長はみんな経営企画系、総務系、財務系といった、いわば“社内官僚”でした。政治家や官庁、労組の方ばかりを向いて仕事をしていて、全く利用者の方を向いていなかった。だから、パイロットとかCA(キャビンアテンダント)とか、地上職、整備士など、とにかくお客さんと向き合ってる人じゃないとダメだというお考えでした。

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