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【大手企業訴訟ウォッチ#5】逆風「楽天グループ」と3つの民事裁判

ソフトバンクvs.楽天「産業スパイ”訴訟」遅々と進まず

そして今回、特に取り上げたいのは楽天グループの一連の訴訟だ。直近では、以下の2つの裁判がある。

・【原告】三木谷浩史、楽天グループ【被告】光文社外【内容】損害賠償【現状】弁論

・【原告】楽天モバイル【被告】楽天モバイル元部長、外【内容】損害賠償【現状】弁論

前者は、光文社が写真週刊誌『FLASH』の2023年4月18日号で「三木谷浩史・楽天グループ会長兼社長、暴力団組員との密接交際写真『俺はコカインの密売人』」との記事を4月4日に掲載し、同日にサイトニュース版の『Smart FLASH』でも公開したことに対し、三木谷氏と楽天グループが名誉棄損を主張して4億448万円の損害賠償を支払えと提訴したものだ。

そして後者は、楽天モバイルの携帯電話基地局設置で、過大な業務委託費を水増し請求して会社に損害を与えたとして、今年2023年3月に楽天モバイル元部長らが詐欺で逮捕された刑事事件における“実害”の損害賠償を求める民事訴訟だ。

一方で、楽天が抱える大きな訴訟としては、2021年にソフトバンクの元社員が、高速移動通信方式「5G」に関する情報を抱えたまま楽天モバイルに転職し、秘密情報を漏洩させたとする、不正競争防止法違反容疑で楽天モバイルの元社員が逮捕された事件がある(2022年12月に懲役2年・執行猶予4年・罰金100万円の有罪判決が下るも、元社員は控訴)。こちらでは、ソフトバンクが楽天モバイルを相手取って、企業秘密を持ち出されたことによる損害賠償を求める民事訴訟が現在も進行している。

まず、こちらの訴訟について記すと、2021年5月にソフトバンクが〈(持ち出された)営業秘密の利用停止および廃棄等、ならびに約1000億円の損害賠償請求権の一部として10億円の支払い等〉を求めて起こしたもの。ただし、企業の秘密情報をめぐるものだけに、「双方から少なからぬ閲覧制限の請求」(東京地裁・民事47部)が出されていることから、「しばらくは閲覧不可能」とのことで、具体的な進行具合さえもわからなかった。

民事47部はビジネス分野に特化した「ビジネス・コート」として、全国で初めて開設された裁判所であり、地裁本庁のある東京・霞ケ関ではなく、中目黒に2022年10月に開設された部署だ。それにしても、提訴から1年以上経って、原告・被告ともに訴状を含めて閲覧制限の請求を行っている最中というから、今後、一応の解決までどれくらいの時間を要するのか。

そもそも、この裁判が注目を集めたのは、寡頭競争が激しい携帯電話の通信キャリア間で起こった「産業スパイ」事件であること。そして1000億円の損害のうち、まずは10億円の賠償を求めつつ、必要であれば訴額の積み増しもあり得るというケースだったからだ。しかし、一見すると注目を集める訴訟の割に、争点が定まらず、だからこそ、進行もままならず、どこに向かうかわからないと疑問視する報道も上がっている。

ここで言われている「営業秘密」とは、元社員がソフトバンクから楽天モバイルに転身する直前に、ソフトバンクのサーバーから私的なGmailに添付して持ち出した通信ネットワークに関するデータだ。

それはソフトバンクの社員時代にアクセスしていた何千ものデータのファイルだが、刑事事件で問題が指摘されたのは、そのうち3つのファイルについてだけ。しかも持ち出したデータは、漏洩させた時点で約2年近くを経た古いものだった。さらには、ソフトバンクの通信ネットワーク情報を社外に持ち出したとしても、それがそのまま楽天モバイルのネットワークに流用できるものではない。そうすると、それぞれの会社で異なるネットワークが漏洩すると危機に至るという、「営業秘密」の中身がそもそも何を指しているのか、それすら焦点が定まっていないといえそうだ。

訴訟の閲覧制限が頻発して中身を見ることが出来ないのも、おそらくはそのことを反映しているのだろう。どうやら「最大1000億円」というソフトバンクがブチ上げた損害額も、最終的には相当に萎んだ金額になりそうな雲行きと言える。 それでは、直近の2訴訟については、どうか。

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