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政治資金制度に“精通”する会計士が説く「収支報告・監査改革」の焦点《前編》

2.政治資金規正法に基づく収支報告書と監査の問題点

「登録政治資金監査人」制度の実態――誰が監査を実施するのか?

現状の政治資金の収支報告書監査は、所定の申請書類の提出および研修を受け、政治資金適正化委員会の登録政治資金監査人名簿に登録された、弁護士、公認会計士、税理士の資格を有する者によって行われる(政治資金規正法19条18項~20項)。要はこれらの有資格者であれば、数時間程度の研修を受ければ法律で認められた監査人になれるということである。

登録者の内訳は、2024年1月末現在、5150人中、税理士が最も多く74.5%、会計士19.0%、弁護士6.5%となっている(2024年4月9日『東京新聞』)。監査・保証の専門家である公認会計士の割合が少ないことは特筆すべきであろう。

同制度は、政治とカネにまつわる度重なる不祥事を背景として2007年に誕生したが、それ以前の監査の多くは、国会議員事務所内部の秘書・職員や議員の近親者によって実施され、会計責任者自身が監査人を兼ねて押印していたケースすら散見されたに記憶している。その意味では、本制度には一定の実効性があったと言えよう。

しかしながら、監査人の多くは、何も登録者名簿から選任されるのではない。議員本人の知人や後援会の紹介、あるいは職員の給与計算などを依頼している場合には当該専門家に監査人の資格をとってもらい、1つの政治資金団体当たり数万円程度の報酬で、追加的に監査を依頼しているというパターンも少なくない。

監査対象と監査項目――何を監査しているのか?

現状の収支報告書監査は、総務省などのマニュアルに基づいた支出面における費目の分類と領収書(1万円以上)のチェックにとどまり、極めて形式的なものとなっている。よって、収支報告書の作成・監査両面において、会計の専門的な知識が必要とされることはほとんどと言ってよいほどない。

さらには、「政治活動の自由の尊重」の大義のもと、収入面については監査対象外となっている。したがって、収入面で違法な取引があったとしても監査で指摘されることは期待すべくもない。今後、政党間協議となる、政治資金を監督する第三者機関が設置された場合においても、その連携や情報提供は極めて限定的とならざるを得ないであろう。

一般に、監査とは、準拠すべき基準と目的に照らして、監査人がその適否に関する意見を表明することを意味するが、収入面を監査しなくてもよいというのであれば、収支報告書全体の信頼性に対する監査ではなく、会計専門的には、範囲を限定した「合意された手続」(Agreed Upon Procedures)に近いものと考えられる。

逆に言えば、今後の改革により、収入面も含めた収支報告書全体の信頼性に関する監査を行うことになれば、監査人は政治資金規正法のみならず政党助成法、公職選挙法などの関連諸法令や、永田型ビジネスモデルの特殊性をよく理解する必要があると心得るべきである。

なお、監査対象となる収支報告書は、各国会議員が設立した政治団体に関するものであり、派閥や党本部は対象外。また、公職選挙法上、提出が義務付けられている候補者の選挙期間中の収支報告書についても監査が求められることはない。

「複式簿記」によらない帳簿記入、「連結」概念の不在

また、収支報告書への帳簿記入は複式簿記によることなく、申し訳程度の資産の明細の提出は求められるが、貸借対照表が作成されることもないため、資産・負債の実在性・網羅性を含め、その信頼性は低いものと言わざるを得ない。

さらに、大多数の国会議員は複数の政治団体を所有しており、収支報告書の提出先も総務省や各地域の選挙管理委員会など、異なるのが通例である。したがって、企業会計上の連結会計の概念は存在せず、さらには、政治団体の代表者を、例えば、本人以外の県会議員や市議会議員などにすることにより、法律上、領収書の公開基準が5万円に引き上げられることから、伝票の付け回しが可能になるとの指摘もある。

後編に続く

三宅博人:公認会計士 自民党・安倍派の政治資金パーテ…
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