企業担当者を悩ます「リスク情報収集」の死角
「ネガティブ情報」がネットに書き込まれていた不祥事企業
一方、外回りの営業担当者などが入手してくる“生の情報”だけでなく、ネット空間の情報にも目を光らせる必要があるのは、先に述べた通り。むしろ、良いか悪いかは別として、ウェブ上にはその匿名性も手伝って、真偽不明の情報が書き殴られていることも多い。そのため、当事者は端から「落書き」として放置しがちだが、そこに死角がある。過去、不祥事を引き起こした大手企業の元社員が語る。
「売り上げの架空計上など、粉飾まがいの不適切会計が発覚しました。不正の詳細すべてを知っていたわけではありませんが、社内が『ノルマ、ノルマ』で荒廃していたのは、社員全員が感じていたこと。要するに、ブラック職場だった。ただ、びっくりしたのは、問題が発覚したあとに取引先から『ネットにも結構、悪口の書き込みがあったもんね……』という一言。実際にネットで検索してみると、(自社に関する)ネガティブ情報が出るわ、出るわで、二重に驚きました」
ブラック職場が不正・不祥事の温床になるのは言うまでもないが、元社員によると、転職サイトの口コミ欄にはいかに職場が荒んでいるかが書き込まれ、匿名掲示板にも不平不満はじめ、ネガティブな内情が綴られていたという。本気かどうか分からない冗談めかした記述や、特定の部署や人物を茶化すような書き込みもあったものの、よく読むと、明らかに内部関係者しか知り得ないような内部情報も多く含まれていた。
「経営の最上層部がネット上の書き込みを知っていたのか、会社を辞めた今となっては分かりません。ただ、積極的に情報を集めていれば、不祥事が発覚する前に自助努力で何らかの是正はできたはず。社内の内部通報を使うよりもネットでの匿名書き込みのほうがハードルは低いかもしれませんが、OB、ましてや現役社員が自社の“悪口”を書くのは余程のことでしょう。そういう声を汲み上げることができなかったから、新聞沙汰になるような、大きな不祥事に発展してしまったのは間違いありません」
このように自社のコーポレートガバナンスをめぐる実情を推し量るうえでも、ネット空間に漂う定性情報には敏感に対処しなければならない。そういう時代が到来しているのだ。もっとも、事実無根のフェイクニュースには毅然とした態度を取るべきなのは言うまでもないが、ネットの書き込みが自社に芽生えた不正や不祥事の何らかの兆候を示しているケースも少なくないのである。先のディークエストHDの淺田氏は、「この場合、情報の正確性はいったん置いても、速度を重視して情報を収集すべき」という。
「当然、新聞やテレビ、雑誌やニュースサイトなど、発信者が明確な場合、内容の信頼性は格段に上昇します。ただ、マスコミの報道対象は、企業規模で言えば、上場企業をはじめとする大手企業が中心となり、本当に欲しい中小の取引先の情報は含まれていないことが大半です。だから、信憑性には疑問があるものの、転職サイトの口コミ欄はもちろん、匿名掲示板や個人ブログなどもチェック対象に含める必要があるでしょう」(淺田氏)
つまり、担当者が属人的に入手する“生の情報”については、報告フローを構築する必要がある。一方、ネット情報は、既存メディアの配信記事と、噂レベルも含めたサイトの情報内容を掛け合わせることで信頼・正確性と速度を担保する――。この両面からの情報収集アプローチが必要になると言える。
それでは、後者のネット情報については、冒頭のメーカーの与信管理担当者のように、日がな一日、モニターを睨み続ければいいかというと、それではあまりに非効率だ。
*
後編では、担当者の負担軽減を実現する「ネット情報収集ツール」の現状についてお送りする。
(後編に続く)
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