【大塚和成弁護士】会社経営権争奪戦における「IRアドバイザー」という死角《後編》
問われるIRアドバイザーの情報管理体制
――最近は特に同一事件でアクティビストと経営者の両方に働きかけたIRアドバイザーの行動が“マッチポンプ”として問題視されています。
大塚 正直に言って、“踏み込んだことをする”ことがIRアドバイザリーであるとするならば、それほど高い専門性が求められる業務だとは思えません。企業価値・株主価値向上プランのプレゼンには高い専門性が求められるとは思いますが、議決権行使助言会社や機関投資家への働きかけは、最終的には属人的な人間関係がモノをいうのであって、それは、組織に帰属するノウハウとはいえないのではないでしょうか。
これまでは先行者利益を得られたかもしれませんが、新規参入者が増えて競争が厳しくなれば、IRアドバイザリー業務の収益は平準化するはずです。最近の一部アドバイザーの“行き過ぎた”行動の要因としては、そうした環境変化において、彼らの中には上場企業もありますから、自分たちも自らの株主から短期的な成長を求められているということがあるのではないでしょうか。
弁護士の利益相反行為は弁護士法ないし弁護士職務基本規程によって厳しく規制されています。弁護士が同一事案で対立する当事者の双方に働きかけ、一方から得た情報を他方に伝えるということは考えられません。だからこそ、依頼者は弁護士を信頼し、自分に不利な情報を含めて一切の情報を明らかにするわけです。そうでなければ十分な弁護はできません。
これに対して、IRアドバイザーは金融商品取引業者ではなく、その行為を規制する業法がありません。証券代行業務を行っている業者もありますが、証券代行業には金融商品取引法の規制はかからず、証券代行業者の行為を規制する業法もありません。上場会社の証券代行業務を行うためには、証券取引所や証券保管振替機構の規程の適用を受けますが、このような証券代行業務の規制が、アドバイザリー業務での公正性を確保する効果まではないのが実情ではないでしょうか。IRアドバイザーの情報管理体制には外部からの規制が乏しく、不安が残ります。
例えば、IRアドバイザーが証券代行業務を通じて得た株主に関する情報をプロキシーファイトでマスコミに有利な記事を書かせるために流用したらどうなるでしょうか。そうした行為が許されるのであれば、日本の資本市場に対する信頼が失われかねません。証券代行業務を営む会社は証券取引所や証券保管振替機構の監督を受けて然るべきですが、少なくとも証券代行業務に関しては十分な情報管理を要求すべきです。
(了)
取材・構成=経済ジャーナリスト 花岡博
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