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遠藤元一弁護士「不祥事抑止」経営陣は本気のメッセージを出しているか【不祥事と内部通報】

「不祥事ゼロ」という発想は間違っている

インタビュー前編から続く米国では、内部告発者と証券取引委員会(SEC)や司法省(DOJ)などの当局とは、内部告発者には不正の通報を行って奨励金を獲得するインセンティブが、また、当局には通報を端緒として調査を効率的に行うインセンティブがありますが、日本では、「臨時の検察官」のような考え方も、通報・告発して企業不祥事が露見しても、通報・告発者に奨励金が払われる制度もありません。むしろ通報や内部告発は、長らく「密告」といった後ろめたい、陰湿なイメージで認識されてきました。

これまた東芝を例に出すと、2016年に出版された『東芝粉飾の原点――内部告発が暴いた闇』(日経BP)には、東芝従業員の声として「なぜ通報しないのか? 通報したら突き止められるからだ」と書かれています。つまり、自分の勤め先を正常化しようと通報しても、上層部が“犯人(通報者)捜し”をして、何らかの報復される恐れがあるから通報にはブレーキがかかるというわけです。

もちろん公益通報者保護法で、通報者・通報内容の秘匿、不利益扱い・報復の禁止等が定められ、企業の内部通報規程 でも、通常、同趣旨の定めが置かれています。しかし、実際には、必ずしも規程 通りの運用が徹底されないケースがあります。例えば、ビッグモーターでは、工場長による損害保険料水増し請求の実態を元社長のLINEに内部通報したところ、きちんと調査もされず、逆に通報者と工場長の人間関係を改善するような指示を受けたことが報告書で認定されています(このようなケースは他社でも少なからず発生しています)。これでは、不利益扱いや報復等が怖くて通報などできません。内部通報が増えない理由は、これが一番大きいでしょう。

では、内部通報を実効的に機能させるにはどうしたらいいのか。経営トップが高い倫理観、インテグリティを持ち、企業をサステナブルに維持・存続させるため、どれだけ真剣に不祥事をなくしたいと考えて取組み、その取組姿勢を現場の隅々まで理解・浸透させる努力を継続的に続けるか、に大きく依存しています。また、次のような点にも注意が必要でしょう。

まず、企業のトップが、不祥事対応は、不祥事を根絶するのではなく、早期に発見して是正することが重要であることを認知し、そのための仕組みを構築して実効的に運用することが必要です。

「企業不祥事をゼロにする」などと声高らかに言うトップがいますが、企業は企業価値を維持・存続させるために凌ぎを削って業務を推進する組織ですので、ヒューマンエラーなどを含めると、不祥事の発生を防止するため幾重にもキーを重ねてもコストが嵩むだけで、“根絶”することなんかできません。「ゼロにする」という発想自体が間違いなのです。

企業は業績達成のプレッシャーに晒され続けているために、事業環境等の状況次第では不祥事に手を染めかねない脆弱な存在であるという“性弱説”の理解が浸透している現在、我が社でも、「不祥事は必ず発生する」という視点にたち、不祥事の芽の小さいうちに発見して、迅速に対処する態勢を社内に構築・定着させることが重要です。そして、不祥事を早期の芽の段階で発見して、傷ついた組織の機能を早期に回復する、それが不祥事が生じた組織に所属する人が傷つき、あるいは不利益を被ることを最小にとどめ、早期回復を図るための重要ツールのひとつとして、内部通報制度があるのです。

通報窓口の担当者の人となりを知らせて心理的ハードルを…
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